D3の江原が進めていた、アルミニウム錯体の励起状態における対称性の破れについて解明した論文がJournal of the American Chemical Society誌に掲載されました!
本研究グループは、高対称性を有するAl(III)二核三重らせん錯体における、励起状態での構造変化と光物理との関係を明らかにしました。本研究成果は、Journal of the American Chemical Society (JACS)誌に掲載されました。
近年、分子の対称性は光機能材料の性能を左右する重要な要素として注目されていますが、特に励起状態における対称性の動的変化とそれがもたらす光物性への影響は、主にd金属錯体で議論されてきた一方で、Al錯体などの典型元素錯体においては未解明な点が多く残されています。
本研究では、ねじれたπ共役系と高い対称性を両立したAl(III)二核三重らせん錯体を対象に、10フェムト秒の超短パルスを用いた過渡吸収分光測定を行い、励起状態の核波束運動に由来するコヒーレント振動を観測しました。特に、410フェムト秒と短い振動緩和時間を持つ1つの配位子のねじれ振動モードが、Jahn–Teller歪みに強く相互作用し対称性破れと配位子の平坦化が生じていることを明らかにしました。
この励起状態での対称性破れと配位子のπ共役を変化させる分子振動の強い結合が、本Al(III)錯体における大きなストークスシフトと高い発光量子収率といった優れた光物性の起源であることを突き止めました。本研究は、地球に豊富にある元素を基盤とした光機能性材料の新たな設計指針を提供し、対称性制御による次世代材料開発への展開が期待されます。
“Dynamic Excited-State Localization Induced by Jahn–Teller Distortion Observed by Coherent Vibrational Spectroscopy”
Takumi Ehara, Yusuke Yoneda, Tatsuya Yoshida, Tomohiro Ogawa, Yuto Konishi, Toshikazu Ono, Atsuya Muranaka, Hikaru Kuramochi*, Kiyoshi Miyata* and Ken Onda*
J. Am. Chem. Soc. in press, 2025